デルの『Inspiron 13 ノートパソコン』(以下、”Inspiron 13 5330″)は、13.3インチディスプレイ搭載のモバイルノートPCです。一般的な13インチタイプよりも本体が小さいながらも、高いパフォーマンスを実現しています。他社の同クラス製品より、お手頃な価格で入手できる点もポイント。
記事執筆時の価格
スペック | 価格 |
---|---|
Core Ultra 5 125H / 16GB / 512GB/ QHD+ | 14万7000円 |
Core Ultra 7 155H / 16GB / 1TB / QHD+ | 16万7000円 |
※2024年4月27日時点
2023年12月に一部スペックが変更され、CPUが第13世代Core PシリーズからMeteor Lake世代のCore Ultraシリーズに変更されました。パフォーマンスについてはいろいろと向上しているものの、値段も4万円程度上がっています。
CPUが変更されたことで性能がどれだけ向上しているのか、また大きく値上がりしたことでコスパはどのように変化したのか、この記事ではそのあたりのことをまとめています。外観や使い勝手などについては、CPU変更前のレビュー記事でご確認ください。
Inspiron 13 5330
おことわり
・この記事の検証では、メーカーからお借りした機材を利用しています。記事の公開にあたり、メーカーによる事前の確認や校閲は受けていません。
・記事執筆にあたり、各機材をそれぞれ5日間程度試用した上で作成しています。長期にわたって試用した際の耐久性については検証していません。
・記事中のリンクからほかのサイトを開き物品を購入すると、当サイト運営元が報酬を得る場合があります。
スペック
発売日 | 2023年12月15日 |
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OS | Windows 11 Home |
ディスプレイ | 13.3インチ、2560×1600ドット、広視野角、300nit、100% sRGB、60Hz |
CPU | Core Ultra 5 125H / Core Ultra 7 155H |
メモリー | 16GB LPDDR5-6400 ※オンボード |
ストレージ | 512GB / 1TB NVMe SSD |
グラフィックス | Intel Arc Graphics(CPU内蔵) |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3 |
インターフェース | Thunderbolt 4(USB PD充電 / 映像出力対応)×2、USB 3.2 Gen1 Type-A ×1、HDMI(最大1920×1080@60Hz)、ヘッドフォン出力 / マイク入力 |
生体認証 | 指紋認証 |
サイズ / 重量 | 幅296.68mm、奥行き213.5mm、高さ14.35~15.65mm / 約1.24kg |
バッテリー | 4セル 64Whr ※駆動時間は非公開 |
前提条件
おことわり
今回のベンチマーク結果には、機種による特性(発熱対策など)が強く出ています。この結果が同じCPU / スペックの一般的な傾向を表わすものでない点に注意してください。機種が変われば、ベンチマーク結果も変わります。
試用機のスペック
旧モデル | テスト機① | テスト機② |
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Core i5-1340P(12C16T、P×4+E×8) | Core Ultra 5 125H(14C18T、P×4+E×8+LPE×2) | Core Ultra 7 155H(16C22T、P×6+E×8+LPE×2) |
LPDDR5x-4800 16GB | LPDDR5x-6400 16GB | |
512GB NVMe SSD | 1TB NVMe SSD | |
Iris Xe | Arc |
Core Ultraモデルでは標準収録ソフト「MyDell」で、パフォーマンスを調整できます。全4種類のモードが用意されていますが、今回は標準設定の「最適化」と省電力設定の「静音」、最大出力の「超高パフォーマンス」を利用しました。旧モデルでは「MyDell」が動作しなかったため、パフォーマンス調整は行なっていません。
またすべての機種で同じテストを行なっているわけではなく、モデルによってはベンチマーク結果がない場合もあります。
※ベンチマークテストはWindows 11の電源プランと電源モードを「バランス」に設定した状態で実施しています
※ベンチマーク結果はパーツ構成だけでなく、環境やタイミング、個体差などさまざまな要因によって大きく変わることがあります
旧モデルとの比較
※CPUベンチマーク結果を紛失してしまったため、CPU性能に関しての比較はできませんでした。
PCMark 10の結果
PCMark 10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。各テストの傾向としては「Essentials」(一般利用)ではCPUのシングルコア性能、「Productivity」(ビジネス利用)ではCPUのマルチコア性能、「Digital Contents Creation」(コンテンツ制作)ではCPUとストレージ、GPU性能が強く影響するようです。
3モデルそれぞれ標準のパフォーマンス設定でテストを行なった際の結果は以下のとおり。
「コンテンツ制作」ではCore Ultraシリーズが非常に優秀ですが、「一般利用」では大差ない結果が出ています。また「ビジネス利用」ではCore Ultra 5がもっとも高いスコアが出ました。これはおそらく、発熱による影響かもしれません。CPUスペックとしてはCore Ultra 7がもっとも優秀なはずですが、発熱対策によってパフォーマンスが低下している可能性があります。旧モデルのCore i5-1340Pでも、熱による影響が強く出ていました。CPUベンチマークではCore Ultra 7は優秀な結果が出るかもしれませんが、実利用においては逆にパフォーマンスが低下する場面もありそうです。
グラフィックス性能
3Dベンチマークテストでは、Core Ultraシリーズのほうが優れた結果が出ています。スコア比ではおよそ2倍弱です。
内蔵グラフィックスの性能差(DirectX 12)
GPU | 3DMark Time Spy Graphicsスコア |
---|---|
RTX 3050 |
4872
|
GTX 1650 |
3444
|
Intel Arc |
3316
|
新モデル(Intel Arc, Core Ultra 5) |
2997
|
Radeon 780M(RDNA 3) |
2747
|
Radeon 680M(RDNA 2) |
2349
|
Iris Xe(LPDDR) |
1516
|
旧モデル(Iris Xe) |
1457
|
Radeon (Zen3) |
1204
|
Iris Xe(DDR4) |
1149
|
Radeon (Zen2+) |
1000
|
UHD(Core i3) |
900
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
非常に優秀な結果ではあるものの、大作ゲームをガッツリプレーできるほどではありません。とは言え、本体の音や熱が気にならなければ軽めのゲームは十分楽しめそうです。
バッテリー駆動時間
バッテリーの駆動時間は公開されていません。そこでPCMark 10のバッテリーテストを利用して、ビジネス作業 (Web閲覧や文書作成、ビデオチャットなど)での駆動時間を計測しました。
結果を比較すると、Core Ultraシリーズ搭載の新モデルでは第13世代搭載の旧モデルよりも駆動時間が33~35%程度伸びています。3.5時間程度延長と考えれば、大きな性能の向上と言っていいでしょう。外出先での利用が多いモバイルタイプですので、この点は大きなメリットです。
CPU性能
ここからは、Core Ultraシリーズ搭載モデルの結果についてのみ取り上げます。
CPU性能を計測する「CINEBENCH R23」の結果は以下のとおり。それぞれパフォーマンス設定と、電源駆動/バッテリー駆動を変えてテストを行ないました。
全体的に、Core Ultra 7モデルのほうで高いスコアが出ています。最大パフォーマンスを発揮できる電源駆動時はあまり差がないものの、バッテリー駆動時ではスコアに20%程度の差が出ました。
バッテリー駆動時は電源駆動時に比べて、性能が下がります。Core Ultra 5モデルではスコアが最大22%低下していますが、Core Ultra 7モデルでは最大でも14%程度しか下がっていません。
以上の結果から、CPUベンチマークの結果で見ればCore Ultra 7モデルのほうが有利だと言えます。とは言えパソコン全体の基準で見れば、Core Ultra 5モデルでも十分です。
パソコンを使った作業の快適さ
続いて、パソコンを使った作業の快適さを表わすはPC Mark 10の結果は以下のとおり。
データが非常に多くて見づらいため、この結果から読み取れる点を以下にまとめました。
ポイント
・バッテリー駆動時はCore Ultra 5モデルのほうが高スコア
・Core Ultra 7モデルが勝るのは、電源接続時の軽めの作業(シングルコア性能)
・省電力設定であるはずの静音設定で高スコア
CPUベンチマークテストではCore Ultra 7モデルのほうが有利との結果が出ましたが、総合ベンチマークテストではCore Ultra 5モデルのほうが有利と出ています。
結果の細部を見ると、Core Ultra 7モデルでは「Productivity」(ビジネス作業)でスコアが大きく落ち込んでいました。このテストではマルチコア性能が影響するため、マルチコア利用による高負荷時の熱によってスコアが下がっていると思われます。普段使いであれば、Core Ultra 5モデルのほうが有利です。
AI性能
「UL Procyon AI Inference Benchmark for Windows」は、ハードウェアのAI推論性能を計測するベンチマークテストです。今回は利用するAPIを「Windows ML」または「Open VINO」に、計算の精度(Precision)を「float32」(浮動小数点)に設定してテストを行なっています。
Windows ML
「Windows ML」は、Windows 10時代からシステムに組み込まれているAI利用環境です。以前から存在するWindows向けのAI対応アプリは、この機能を利用しているものが多いと思われます。ただし最近人気の生成AIや「Microsoft Copilot」などで使われているかは不明です。
Core Ultraシリーズ搭載モデルの結果は以下のとおり。同じCore Ultraを搭載する別機種と似たような結果が出ていることから、順当な結果だと思われます。第13世代以前ではGPU(内蔵グラフィックス)のテストでエラーが出ることが多かったため、確実に完走していることを考えれば、総合的なAI性能は向上していると考えていいでしょう。
比較機のスペック
ZenBook 14 OLED UX3504MA | Core Ultra 7 155H / 16GB / Intel Arc |
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HP Pavilion Plus 14 | Core i7-1355U / 16GB / Iris Xe |
Legiohn Go | Ryzen Z1 Extreme / 16GB / Radeon(RDNA3) |
HP Pavilion Gaming 15 | Ryzen 7 5800H / 16GB / RTX 3050 Ti |
ただし従来のRyzen系CPUや、エントリー向けGPU搭載のゲーミングノートPCと比べると、それほど高い結果ではありません。Windows MLは現在のところNPUに対応していないため、Core Ultraシリーズによる恩恵は少ないと考えていいでしょう。
Open VINO
OpenVINOは、インテルが提供するAIソフトウェア開発環境(ツールキット)です。シンプルなコードでインテル製ハードウェアの性能を十分に活かしたソフトやサービスを作れる点が特徴。現在では対応するものは少ないものの(主なものだと、Stable Diffusionを利用するためのGIMP用プラグイン)、今後は増えていくかもしれません。
Core Ultraシリーズ搭載モデルの結果は以下のとおりです。Open VINOはインテル第6世代Coreプロセッサーから対応しているものの、AMD製CPUには対応していません。また第13世代以前のCPUはNPU非搭載です。
第13世代に比べると、スコアは大きく向上していることがわかります。NPUよりもGPU(Intel Arc Graphics)のほうがスコアが高いものの、GPUとNPUを同時に利用したり、電力状況に応じて最適なほうを使うような処理が行なわれるなら効果は高いでしょう。
ただ「インテル製CPUしか対応していない」点と「現状で使われているソフトが少ない」点を考えると、この結果にどれだけのメリットがあるのか疑問です。また2024年後半にリリースされる予定(搭載機が発売されるのは2025年初頭?)の次期CPUでは、AI性能がさらに向上すると言われています。いますぐ必要でないなら、しばらく様子を見るのもアリかもしれません。
クリエイティブ性能
クリエイティブ性能(コンテンツ制作性能)の計測には、前述と同じ「UL Procyon」を使いました。世界的にも利用者が多く「デファクトスタンダード」とも言えるアドビ製プロクリエイター向けソフトの快適さを計測します。「PCMark 10」と比べて、より高度で実践的なテストを行なう点が特徴です。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Photo Editing | 写真加工における総合評価。「Image Retouching」と「Batch Processing」の幾何平均 |
Image Retouching | 「Photoshop」メインで画像の加工を行なうテスト。CPUとメモリー、GPUの性能が影響しやい |
Batch Processing | RAW画像の一括出力処理を行なう「Lightroom Classic」メインのテスト。CPUとストレージの性能が影響しやすい |
Video Editing | 「Premiere Pro」を使ったテストで、フルHD (H.264)および4K (H.265)動画の出力にかかった時間からスコアが算出される |
テストの結果は以下のとおりです。GPU性能が影響するPhotoshopベースの「Image Retouching」では比較的高いスコアが出ているものの、Lightroomベースの「Batch Processing」ではスコアが低めでした。ほかのテストを同じように、CPUの熱対策の影響が出ているのかもしれません。
比較機のスペック
ZenBook 14 OLED UX3504MA | Core Ultra 7 155H / 16GB / Intel Arc |
---|---|
Yoga Book 9i Gen8 | Core i7-1355U / 16GB / Iris Xe |
Legiohn Go | Ryzen Z1 Extreme / 16GB / Radeon(RDNA3) |
HP Pavilion Gaming 15 | Ryzen 7 5800H / 16GB / RTX 3050 Ti |
ただ、Video Editingに関しては異様に高いスコアが出ています。筆者のメインPCであるCore i9-12900K+RTX 3090搭載デスクトップPCで「8300」程度ですから、それと同等以上ということ。いくらなんでもスコアが高すぎでしょう。もしかするとUL Procyonのバグかなにかの可能性があるため、ここでは判断を保留とします。
考察とまとめ
新CPUで処理性能は微増
モバイルノートPCとして見れば、十分なパフォーマンスです。ただCore Ultraシリーズ搭載で「処理」性能が劇的に変わったかというと、それほどでもない気がします。特にこの機種は熱の影響を受けやすく、CPU本来の性能を活かし切れていないのかもしれません。ただ最近のインテル製CPUは発熱量が高いため、ベンチマークスコアが伸び悩むのはモバイルノートPC全体でよく見られる傾向です。
AI性能は向上しているが……
NPUを搭載したことで、Open VINO系のAIベンチマーク結果は大きく向上しました。しかし前述のとおりOpen VINOは「インテル製CPUしか対応していない」点と、「現状で使われているソフトが少ない」点がデメリット。今後どれだけ需要が高まるかはわかりません。
ローカルで処理する「オンデバイスAI」は、今後間違いなく普及するでしょう。しかしそのために必要なAI性能は、おそらく現在よりももっと高いレベルになると予想されています。一説によると、ローカルでマイクロソフトCopilotを利用するには40TOPSが必要とのこと。Inspiron 13 5330で使われているMeteor Lake世代のCore Ultraシリーズは、10TOPS程度でしかありません。これが次世代のLunar Lakeでは40TOPSに届くかもとのことですから、AI目的であるなら2025年初頭の次世代CPU搭載機発売まで待ったほうがいいと思います。
バッテリー駆動時間の延長は魅力
Inspiron 13 5330に関しては、新CPUを採用することでバッテリー駆動時間が33~35%延びました。これはMeteor Lakeで採用された「タイルアーキテクチャ」や「低消費電力Eコア」などが影響しているのでしょう。モバイルノートPCとしては大きなメリットであり、この点だけでも新モデルを選ぶ理由となるはずです。