世はまさに大ミニPC時代――と言っても過言ではないくらいの雰囲気がPCマニア界隈にはありますが、世の中的には実はそうでないのかもしれません。アマゾンでは中国メーカー製のミニPCがデスクトップPCランキングで常に上位を占めているものの、価格比較サイトや販売店のランキングでは大手メーカー製で「従来型」の製品がほとんどです。
そんなネットのランキングで、いつもだいたい10位以内に入っているのがコレ。デルのスリム型デスクトップPCです。ランキングからゲーミングPCを抜くと、概ね3位あたり。デスクトップPCとしては、なかなかの人気と考えていいのではないでしょうか。
このシリーズは毎年新しいモデルがリリースされているものの、サイズや外観、端子構成などはあまり変わりません。。2024年モデルの「3030S」は、CPUに第14世代Coreプロセッサを使用している点と、メモリーがDDR4-3200からDDR5-4400に変更された点が主な特徴。また少しでも価格を抑えたい人のために、第12世代Coreプロセッサのモデルも用意されています。
極小サイズのミニPCがロマンの塊であるのに対し、この手のタイプにはロマンもへったくれもありません。「ザ・堅実」的なところが最善とされるわけです。安定感&安心感重視で、手堅いデスクトップPCを選びたい人に向いています。というより、普通は選ぶならミニPCよりコッチでしょう。
ということで、この記事ではメーカーからお借りした実機を使って、本体の外観や機能、実際の性能についてレビューします。作業用に「選んで間違いのないPC」を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
Inspironスモールデスクトップ(3030S)
おことわり
このレビュー記事では、メーカー貸し出し機材を1週間程度試用した上で作成しています。長期にわたって試用した際の耐久性については検証していません。あらかじめご了承ください。
スペック
発売日 | 2024年1月26日 |
---|---|
OS | Windows 11 Home / Pro |
CPU | Core i3-14100 / Core i5-14400 / Core i7-14700 / Core i5-12400 / Core i7-12700 |
メモリー | 8GB×1 / 16GB×1 ※スロット2基、DDR5-4400、最大64GB |
ストレージ | 512GB / 1TB SSD |
グラフィックス | UHD Graphics 730 / 770(CPU内蔵) |
フォームファクター | ※独自規格 |
M.2スロット | 2 (ストレージ用×1、Wi-Fiカード用×1) |
光学ドライブ | DVDスーパーマルチドライブ |
ドライブベイ | 3.5インチ×1 |
拡張スロット | PCI Express x16 ×1、PCI Express x1×1 |
通信 | Wi-Fi 6、Bluetooth5.3、有線LAN(1Gb) |
電源 | 180W BRONZE |
サイズ / 重量 | 幅92.6×奥行き292×高さ290mm / 約4.72kg |
オフィス | なし / Office 2021(Personal / Home & Business) |
価格(記事執筆時)
スペック | 価格 |
---|---|
Core i3-14100 / 8GB / 512GB | 6万4705円 |
Core i5-12400 / 8GB / 512GB | 6万8990円 |
Core i5-14400 / 8GB / 512GB | 8万6900円 |
Core i5-14400 / 16GB / 512GB | 9万0900円 |
Core i7-12700 / 16GB / 512GB | 11万9900円 |
Core i7-14700 / 16GB / 1TB | 12万2299円 |
※2024年6月27日時点
本体デザイン
外観
Inspiron 3030 スモールデスクトップの見た目はとてもシンプルです。業務用としても使われるため、本体デザインに斬新さやスタイリッシュさは感じられません。ですが本体がスリムなこともあって、いい意味で存在感が薄い(目立たない)ように感じます。
インターフェース構成
端子類は十分な構成です。DVD-Rなどのメディアを使うための光学ドライブが付いている点が特徴。
パーツの交換について
本体の分解方法
本体内部にアクセスするには、ちょっと手間がかかります。作業にはドライバーが必要なので、あらかじめ準備しておきましょう。
メモリーの増設
メモリーの取り付けは簡単です。マザーボード上のスロットさえ出てしまえば、あとは差し込むだけ。デスクトップPC向けのUDIMMに対応しています。
SSDの増設
テスト機ではストレージ用のSSDとして、Type-2230のM.2タイプが使われていました。大容量タイプへの換装は可能ですが、ストレージのクローン(コピー)やウィンドウズのクリーンインストールが必要なので注意してください。3.5インチストレージの追加なら、比較的手間がかかりません。
そのほかのパーツ
ベンチマーク結果
パフォーマンス設定
各種ベンチマークテストはまずWindows 11の電源プランを「バランス」に、電源モードを「バランス」に設定。さらに標準収録ソフト「MyDell」の「電源」→「温度管理」を「最適化」にした状態(これが標準設定)で実施しています。
試用機のスペック
CPU | Core i5-14400 |
---|---|
メモリー | 16GB |
ストレージ | 512GB SSD |
グラフィックス | UHD Graphics 730(CPU内蔵) |
※ベンチマーク結果はパーツ構成やタイミング、環境、個体差などの要因で大きく変わることがあります
CPU性能
CPUとしては、第14世代のスタンダードデスクトップPC向けであるCore i3-14100 / Core i5-14400 / Core i7-14700、第12世代のCore i5-12400 / Core i7-12700の計5種類が使われています。
Core i5-14400搭載の試用機でCPUベンチマークテストを行なったところ、旧世代のCPUを搭載したミニタワー型デスクトップ(IdeaCentre 5i Gen 8とInspiron 3020)と変わらないあるいは低いスコアが出ました。またノートPC向けのCore i9-13900Hを搭載したミニPC(GEEKOM NUC GT13 PRO)ともあまり変わりません。
デスクトップPC向けCPU性能比較
CPU | CINEBENCH R23 |
---|---|
Iテスト機(Core i5-14400) |
1700
11873 |
IdeaCentre 5i Gen 8(Core i5-13400) |
1772
11826 |
Inspiron 3020(Core i5-13400) |
1762
13666 |
GEEKOM NUC GT13 PRO(Core i9-13900H) |
1723
11651 |
※「S」はシングル、「M」はマルチ。スコアは当サイトの実機計測結果
おそらくですが、スリム型のInspiron 3030Sでは熱対策によってパフォーマンスが若干抑えられているのかもしれません。CPUのパフォーマンスを極限まで使うことが目的の機種ではないため、この点については問題ないと思います。
スコアの統計データが公開されているPassMarkの結果を、スタンダードデスクトップPC向けCPUと比較したのが以下のグラフです。
デスクトップPC向けCPUの性能比較
CPU | PassMark CPU Marks |
---|---|
Core i7-14700 |
4183
45031 |
Core i7-13700 |
4142
37224 |
Core i7-12700 |
3913
30793 |
Core i5-14400 |
3783
26260 |
テスト機(Core i5-14400) |
3816
25421 |
Core i5-13400 |
3692
24885 |
Core i5-12400 |
3527
19388 |
Core i3-13100 |
3660
14951 |
Core i3-13100 |
3645
14651 |
※「S」はシングル、「T」は総合性能。そのほかのスコアはPassMark CPU Benchmarksを参考にしました
このテストでは総合性能のスコアにシングルスレッドのスコアが含まれるため、マルチスレッド時の性能差が若干弱めに現われます。そのためCore i5-1440の平均値と、あまり変わらない結果が出ました。結果としては普通ですが、やはり「最強を目指すPCではない」ので、特に問題はありません。
グラフィックス性能
グラフィックス機能としては、CPU内蔵のUHD 730 / 770が使われます。3Dベンチマークテスト結果はかなり低く、ゲームや動画編集での効果は期待できません。基本的に文字や数値データを扱うための機種です。
デスクトップPC向けGPU性能(DirectX 12,WQHD)
GPU | 3DMark Time Spy Graphics |
---|---|
RTX 3050 |
6204
|
GTX 1650 |
3555
|
Inspiron 3030S(UHD 730) |
637
|
※そのほかのスコアはUL Solutionsによる平均値
PCを使った作業の快適さ
PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Essentials (一般利用) |
ソフトの起動やWeb閲覧、ビデオ会議など一般的な作業を想定。CPUのシングルコア性能が強く影響する |
Productivity (ビジネス利用) |
表計算とワープロにおいて、中規模クラスのデータを扱うテスト。CPUのマルチコア性能が影響しやすい |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) |
写真加工と3D製作、動画編集を扱うテスト。CPU性能とグラフィックス性能が強く影響する |
テストでは、目標値は大きくクリアーしました。ですが、特に比較機よりも優秀というわけでもありません。このあたりは、手堅い性能と考えていいでしょう。
ミニPCに関しては、10万円クラスのGEEKOM NUC GT13 PRO(Core i9-13900H搭載)でようやく同じくらいといったところです。
PCMark 10ベンチマーク結果
テスト | スコア |
---|---|
Essentials 目標値:4100 |
10801
10921
10496
10295
10256 |
Productivity 目標値:4500 |
7338
6840
7704
7574
9930 |
Digital Contents Creation 目標値:3450 |
5936
7429
5456
5392
5707 |
※スコアの目標値はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック(ミニPC)
GEEKOM NUC GT13 PRO | Core i9-13900H / 32GB / UHD |
---|---|
▶Inspiron 3020 | Core i5-13400 / 8GB / UHD |
▶IdeaCentre 5i Gen 8 | Core i5-13400 / 8GB / UHD |
ThinkCentre M75q Gen2 | Ryzen 7 PRO 5750GE / 32GB / Radeon |
考察とまとめ
普通の人のための手堅い機種
ザックリと触ってみても、特に目立った部分はありませんでした。しかし、そんな奇をてらわない手堅さが、この機種における最大の魅力と言えるかもしれません。見た目も普通、性能も普通、機能も普通。でも安定動作で信頼感はバツグン。何の問題もなく、確実に使える機種です。それこそが、最近のスリム型PCに求められる要素でしょう。
また「デスクトップPC向けのCPUが使われている」という安心感もあります。ミニPCで使われているのは、ノートPC向けCPUが中心。Core i7やRyzen 7が使われていたとしても、一般的なデスクトップPCよりもCPUパワーで劣る場合があるでしょう。そこまでの性能が必要かどうかは別として、「強いCPUを使っている」という意識は精神衛生的にも大切なことです。
改造には不向き
スリム型だけあって、拡張性に乏しい点は残念です。せいぜいメモリーを32GBにしたり、3.5インチシャドウベイにHDDかSSDを追加するのが関の山でしょう。拡張スロットには、グラボ以外のボードを使うことになりそうです。とは言えそもそもスリム型PCはガッツリ改造するためのものではありませんから、その点をあらかじめ意識しておけば問題ないと思います。
Inspironスモールデスクトップ(3030S)
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