GMKtecの『NucBox10』は、コンパクトサイズのミニPCです。主なスペックは、Ryzen 7 5800U / 16GBメモリー / 512GB SSD / Windows 11 Proの構成。CPUはノートPC用ですが、1~2年前のハイエンド機向けでそこそこ高性能です。
そしてなにより驚きなのが、価格が超安い点です。表示価格は4万円台後半から5万円台ですが、日々更新されるクーポンによって、実際には4万円台半ばあたりで購入できます。記事執筆時(4/12)は4万2433円。スペックの高さを考えると、本当にあり得ない金額です。安すぎて不安になるレベル。ただし駆動音がけっこう大きいので、その点については注意してください。
この記事では筆者が購入した実機を使って、本体の外観や機能、実際の性能についてレビューします。
ミニPCに関してのご注意
ミニPCは中国のインディーズメーカーによるものが中心で、品質や信頼性に関しては大手メーカー製ほどではない場合があります。あくまでもPCマニア向けのオモチャとして考えてください。長期間安心して使いたいなら、大手メーカー製品を強くおすすめします。
スペック
発売 | 2022年12月 |
---|---|
OS | Windows 11 Pro |
CPU | Ryzen 7 5800U(8コア/16スレッド、本来はノートPC向け) |
チップセット | ※CPUに内蔵 |
グラフィックス | Radeon Graphics (CPU内蔵) |
メモリー | 16GB(8GB×2) DDR4-3200 ※最大64GB |
ストレージ | 512GB PCIe Gen3 SSD ※最大2TB |
インターフェース | USB3.1 Gen2 Type-C(USB PD/映像出力対応)×1、USB3.1 Gen2×2、USB2.0×2、3.5mmマイク/ヘッドホン端子×各1、HDMI2.0(4K@60Hz)×2、microSDカードスロット、有線LAN |
拡張スロット | M.2×1(ストレージ用×1) |
ドライブベイ | なし |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2、有線LAN(2.5Gbps) |
サイズ / 重量 | 幅124×奥行き112×高さ37mm / 約379g |
電源 | 64.98W アダプター |
本体デザイン
NucBox10の本体は、非常にコンパクトです。設置面積は一般的なCDケースよりもひと回り小さい程度。設置に場所を取りません。ブルーのカラーは好みがわかれるかもしれませんが、アルミ素材が使われたボディはなかなか高品質で、個人的には好印象です。
本体内部とメモリー/SSDの増設について
NucBox10では、メモリーとSSDを交換可能です。ただしパーツによっては高い温度が生じるため、不具合を避けるために入念な熱対策が必要となるでしょう。基本的にはパーツ交換なしで、そのまま使うのがいちばん面倒がないと思います。※作業にはプラスドライバーが必要です
ベンチマーク結果
試用機のスペック
CPU | Ryzen 7 5800U(8コア/16スレッド) |
---|---|
メモリー | 16GB |
ストレージ | 512GB SSD |
グラフィックス | Radeon Graphics(CPU内蔵) |
※各種ベンチマークテストは、ベンチマークテストはWindows 11の電源プランを「バランス」、電源モードを「最適なパフォーマンス」に設定した上で実施しています
※ベンチマーク結果はパーツ構成やタイミング、環境、個体差などの要因で大きく変わることがあります
CPU性能
CPUとしては使われているRyzen 7 5800Uは、本来ノートPC向けです。デスクトップPC向けCPUよりも、性能はかなり劣ります。
CPU性能(デスクトップPC向けCPUとの比較)
CPU | 3DMark Time Spy CPU Score |
---|---|
Core i5-12400 |
9316
|
Ryzen 5 5600X |
8111
|
Ryzen 5 5600G |
7492
|
Ryzen 5 4500 |
6952
|
Core i3-12100F |
6541
|
NucBox(Ryzen 7 5800U) |
5627
|
※そのほかのスコアは3DMark公式サイトによる平均値
ノートPC向けCPUと比較すると、概ね中位クラスあたりの性能です。ただしRyzen 7 5800U本来の性能ではなく、パフォーマンスがやや抑えられているように見受けられます。おそらく熱対策のために、あえて性能を落としているのでしょう。とは言え、一般的な作業であれば問題なく利用できるレベルです。
CPUの性能差 (総合性能)
CPU | PassMark 10 CPU Markスコア |
---|---|
Ryzen 7 6800U |
22327
|
Ryzen 7 5825U |
20302
|
Ryzen 7 7730U |
20005
|
Core i7-1260P |
20058
|
Ryzen 7 5800U |
19463
|
Core i5-1240P |
18571
|
NucBox10(Ryzen 7 5800U) |
18450
|
Ryzen 5 5625U |
17145
|
Core i7-1255U |
17176
|
Core i5-1235U |
13808
|
Ryzen 3 7330U |
11818
|
Core i3-1215U |
11681
|
Ryzen 5 7520U |
10124
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
CPUの性能差 (マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R23 CPUスコア |
---|---|
Ryzen 7 6800U |
10183
|
Ryzen 7 5825U |
9740
|
Ryzen 7 7730U |
9293
|
Ryzen 7 5800U |
9195
|
Core i7-1260P |
9254
|
Core i5-1240P |
8928
|
Ryzen 5 5625U |
8376
|
Core i7-1255U |
7819
|
NucBox10(Ryzen 7 5800U) |
7707
|
Core i5-1235U |
7664
|
Core i3-1215U |
6216
|
Ryzen 3 7330U |
5108
|
Ryzen 5 7520U |
5029
|
※10分間実行し続けた際の最終スコア。そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
ストレージ性能
ストレージには、PCIe 3.0 x4の512GB NVMe SSDが使われています。使用機で使われていたのはLexarのNM620シリーズ。ミニPCとしては、アクセス速度がなかなか優秀です。ただしテストの負荷を上げると、ランダムアクセスで速度の低下が見られました。熱による影響が出ているのかもしれません。
グラフィックス性能
グラフィックス機能としては、CPU内蔵のRadeon Graphicsが使われています。性能はそれほど高くはないものの、Ryzenシリーズとしてはちょっといい程度でした。大作ゲームや高度な動画編集を行なえるほどではありません。
GPUの性能差(DirectX 12)
GPU | 3DMark Time Spy Graphicsスコア |
---|---|
GTX 1650 |
3241
|
Radeon 680M(Ryzen7) |
2211
|
Iris Xe(Core i7+LPDDR4x) |
1528
|
Iris Xe(Core i5+LPDDR4x) |
1302
|
NucBox(Ryzen 7,Radeon) |
1157
|
Iris Xe(Core i7+DDR4) |
1149
|
Radeon (Ryzen 7) |
1000
|
Iris Xe(Core i5+DDR4) |
977
|
UHD(Core i3) |
900
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
なお標準設定では、VRAMが512MBに設定されています。UEFI(BIOS)設定を変更するとVRAMを最大2GBまで変更可能で、グラフィックス性能が多少アップするようです。
PCを使った作業の快適さ
PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。各テストの傾向としては「Essentials」(一般利用)ではCPUのシングルコア性能やストレージ性能、「Productivity」(ビジネス利用)ではCPUのマルチコア性能とメモリー性能、「Digital Contents Creation」(コンテンツ制作)ではCPUとストレージ、GPU性能が強く影響するようです。
NucBox10は本来デスクトップPCの一種ですが、ノートPC向けCPUが使われているので、ノートPCとの比較でまとめました。各テストの目標値は大きく上回っており、10万円クラスの高性能ノートPCと比べても遜色ありません。コンテンツ制作(写真加工や3D / 動画制作)はやや弱いものの、普段使いからビジネス作業まで幅広いシーンで活用できるでしょう。
PCMark 10ベンチマーク結果
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般的な利用) 目標値:4100 |
10603
9984
10606
10594
10647
10093 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 |
9709
9266
8578
9536
6968
6759 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 |
6044
5987
7972
6685
5997
6342 |
※スコアの目安はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック(スリムノートPC)
▶IdeaPad Slim 570 | Ryzen 5 5625U / 8GB / Radeon |
---|---|
▶Yoga 770 | Ryzen 7 6800U / 16GB / Radeon 680M |
▶HP Pavilion 15-eh | Ryzen 7 5825U / 16GB / Radeon |
▶HP Spectre x360-14 | Core i7-1255U / 16GB / Iris Xe |
▶XPS 13 Plus | Core i7-1260P / 16GB / Iris Xe |
ゲーム性能について
NucBox10は専用GPU(dGPU、グラボ)非搭載で、本来はゲーム向けではありません。しかし動作の軽いゲームであれば、フルHDでも画質を調整することで普通にプレーできます。テスト結果は標準設定時のものなので、VRAMの容量を変更すればよりフレームレートが伸びるかもしれません。また解像度を1280×720ドットに下げれば、フレームレートはさらに向上するでしょう。
エーペックスレジェンズ 射撃訓練場(中量級)
画質 | 平均FPS / 低位1% |
最高画質 | 11.5 / 9.7 |
最低画質 | 37.1 / 29.2 |
※1920×1080ドット。実際のプレーではこの結果よりもFPSが低下します
ヴァロラント 屋外射撃場(超軽い)
画質 | 平均FPS / 低位1% |
最高画質 | 77.1 / 50.1 FPS |
最低画質 | 181.6 / 92 FPS |
※1920×1080ドット。実際のプレーではこの結果よりもFPSが10%程度低下します
レインボーシックス シージ(軽い)
画質 | 平均FPS / 最低FPS |
最高画質 | 54 / 43 |
最低画質 | 71 / 60 |
※1920×1080ドット。ゲーム内ベンチマークの結果
CS:GO FPS Benchmark(軽い)
画質 | 平均FPS |
最高画質 | 64.61 |
最低画質 | 125.66 |
※1920×1080ドット。ワークショップ内のマップ「FPS Benchmark」を使用
熱と騒音について
本体が小さいと、内部に熱がこもりがちです。内部の温度が上がりすぎると性能が低下したり、パーツが劣化しやすくなる心配があります。
そこで高負荷時におけるCPUの温度を計測したところ、最大でも70度ちょっと、高負荷の状態が長時間続いたときは60度前後を推移していました。Ryzen 7 5800Uの最大クロックは4.4GHzですが、テスト開始直後に一瞬だけ4GHzをオーバーしたものの、あとは意図的に抑えられているように見えます。
ファンの音は、大きく聞こえます。個人的な感覚では、ゲーミングノートPCやUSB扇風機の音といったところ。耳をふさぎたくなるほどうるさいわけではないものの、常時聞こえているとジワジワとストレスがたまります。
ただ、ヘッドホンやノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを使えば、音はほとんど気になりません。普段からこれらを使っている人なら、駆動音の大きさも問題ないと思います。
駆動音の計測結果
電源オフ | 37dBA | - |
---|---|---|
待機中 | 44dBA前後 | 未使用状態でも音がハッキリと聞こえる。少し離れた場所にも届くほど |
軽作業中 | 48dBA前後 | ファンの回転が上がり、音がさらに大きく聞こえる |
高負荷時 | 52dBA前後 | けっこう大きいが、爆音と言うほどではない。ヘッドホンを着用すれば気にならない程度 |
ちなみにファンの音をなんとか下げられないか、あるいは強制的に冷やすことでパフォーマンスが向上しないか調べてみたのですが、効果はありませんでした。CPU温度(Tctl/Tdie)が40度に達すると、自動的にファンが強く回るようです。ファンの回転は一般的なソフトからは確認できず、OC用の『AMD Ryzen Master』も非対応でした。UEFI(BIOS)設定でも、設定項目が用意されていないようです(もしかしたらあるかもしれませんが)。
音が気にならないなら高コスパ
熱対策でパフォーマンスはやや抑えられているものの、4万円台のミニPCとしてはあり得ないほど高コスパです。モバイルディスプレイと組み合わせれば、ノートPCのようにお片付け可能。普段使いや事務系の作業には、もうこれでいいんじゃないでしょうか。
唯一気になるのは、音の大きさです。しかしガマンできないほどではありませんし、ヘッドホンやイヤホンを点ければ気になりません。なので、運用には多少の工夫が必要です。
懸念事項があるとすれば、大手ではなく中国のインディーズメーカーである点でしょう。これまで筆者はこの手の製品で問題に直面したことはありませんが、大手メーカーよりはトラブルが起きやすい可能性があるかもしれません。生産部門での品質管理や部品の仕入れルートなどについても、大手のほうが安定していると思われます。
その点を踏まえた上で、コスパを取るのかどうかの判断が必要です。筆者としては自分である程度解決 / 交渉できるのであれば、購入はアリだと考えています。とは言え、PCにトラブルは絶対について回るものなので、そのあたりはあらかじめご了承ください。
*
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