レノボの『ThinkPad Z16 Gen 1(AMD) 』(以下、”ThinkPad Z16″)は、16インチサイズのディスプレイを搭載する据え置き向けのスタンダードノートPCです。CPUはZen3+世代のモバイルRyzen PRO 6000シリーズで、上位モデルはグラフィックス機能としてRadeon RX 6500M(4GB)を搭載。薄型ノートPCとしては非常に高性能で、ガッツリと作業する人に向いています。
レビューをご覧になる前にまず意識していただきたいのは、この機種は従来のThinkPadではないという点です。ThinkPadのお約束は一部残されているものの、見た目から使用感までだいぶ異なります。
レノボのリリースによると、製品名である「Z16」の「Z」は「Z世代」を意識したものです。さらにいまから17年ちょっと前、ThinkPadのブランドがIBMからレノボへ売却され、新生ThinkPadとして登場したはじめのモデルが「Z」シリーズでした。このことから「Z」は本来アルファベットでは最後の文字ではあるものの、ThinkPad Z16には従来にはない”新しさ”への気概が感じられます。
そこでこの記事ではメーカーからお借りした実機を使って、デザインや性能、実際の使い心地などを従来のThinkPadとどこが異なるのかを交えながらレビューします。
ThinkPad Z16 Gen 1(AMD)
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スペック
OS | Windows 11 Home / Pro |
---|---|
ディスプレイ | 16インチ 1920×1200 IPS 非光沢 タッチ非対応 100% sRGB 400nit |
CPU | Ryzen 5 PRO 6650H / Ryzen 7 PRO 6850H / Ryzen 9 RO 6950H |
メモリー | 16 / 32GB LPDDR5-6400 ※オンボード |
ストレージ | 512GB / 1TB NVMe Gen4 SSD |
グラフィックス | Radeon 660M(CPU内蔵) / Radeon RX 6500M(4GB) |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth5.2 ※LTE対応予定 |
インターフェース | USB4×2、USB3.2 Gen2 Type-C×1、SDカードスロット、ヘッドフォン出力 / マイク入力 |
セキュリティ | 指紋センサー、IRカメラ |
サイズ / 重量 | 幅354.4mm、奥行き237.4mm、高さ15.8mm / 約1.81kg |
バッテリー | 最大 約25.9時間 |
本体デザイン
PCに詳しい方なら、「ThinkPad」と聞いてブラックの本体デザインを思い浮かべることでしょう。天板デザインのバリエーションとしてシルバーやホワイトなどはこれまでにもありましたが、「ThinkPadブラック」とも呼ばれる黒い筐体が事実上の標準でした。
ThinkPad Z16はそのお約束を覆し、天板にはアークティックグレーのカラーが使われています。実際の色合いは、やや暗めのメタリックなシルバー。iPadのスペースグレイに似ていると言えば、イメージしやすいかもしれません。
特徴的なのは、ディスプレイ上部の出っぱり部分。カメラやマイクが収納されたこの部分は「コミュニケーションバー」と呼ばれており、あえて天板とは異なるデザインに仕上げられています。
ディスプレイを開いた際の見た目は、あまり変わっていません。トラックポイントがある点が、いかにもThinkPad的です。ただし詳しくは後述しますが、使い勝手は従来のThinkPadと微妙に異なります。
端子類は、あまり多くはありません。特にUSB Type-A端子が用意されていないのは、ThinkPadとしては思い切った構成です。ワイヤレス機器が増えているいま、Type-Aは必要ないという判断でしょうか。必要に応じてType-Cドックを用意すればいいので、特に困る場面は少ないと思います。SDカードスロットが用意されているのは、デジカメから画像や動画を直接コピーするためでしょう。
サイズと重量
16インチの大型ディスプレイを搭載しているため、本体サイズはそこそこ大きめです。ただ一般的な16インチタイプよりも、薄型コンパクトに作られています。天板がブラックでないぶん、ThinkPad X1 Extrmeのようなゴツさや圧倒的な存在感はありません。ThinkPadとしては、スタイリッシュな印象です。
ディスプレイについて
ディスプレイは良くも悪くも普通です。16:10のアスペクト比や100% sRGBの色域など、押さえるべき点は押さえています。しかしスペック的な目新しさはなく、”新しいThinkPad”としてはちょっと肩透かしを喰らったように感じました。海外向けモデルでは4K OLEDパネルに対応してるのですが、国内向けは1920×1200ドットのみのようで残念です。
※国内向けモデルでも4K OLEDを選択できる気配がありますが、記事執筆時点では選択できませんでした
キーボードについて
ThinkPadの魅力のひとつに、「キーボードが使いやすい」点が挙げられます。ThinkPad Z16は従来のThinkPad的な使いやすさを意識しながらも、細かい部分で微妙にアップデートされていました。ザッと使った感覚としては、ThinkPad以外のノートPCに近づけているような印象です。
キーストロークは、スタンダードタイプのThinkPadとしては浅く感じます。これまでのThinkPadシリーズはモバイル向けでキーストロークが1.5mm程度、据え置き向けで1.7~1.8mmが一般的でした。ThinkPad Z16はモバイル向けに近く、タイプ感は1.5mmよりもわずかに浅く感じます。体感的には1.4~1.3mmあたりでしょうか。
ストロークは特別浅いわけではありませんが、従来のThinkPadに比べると少し物足りないかもしれません。ただ最近薄型ノートPCはストロークが1~1.2mmのものもあり、そのレベルの浅いストロークに慣れた人ならしっかりとしたタイプ感を感じられるのでしょう。たとえばMacBookなどよりは、キーを打っている感が強いはずです。
個人的に気になるのは、タッチパッドが感圧式である点です。触感フィードバックにより押した瞬間は「コツッ」としたクリック感があるのですが、ストロークが非常に浅く指が途中で止まるような印象を受けました。また複数の指でスクロールする際に、微妙に慣れの問題なのかもしれませんが、
ユニークなのは、トラックポイントをダブルタップするとさまざまな機能を呼び出せる点です。トラックポイント操作中に誤動作することはなかったものの、使い方によっては意図しない動きをするかもしれません。ただ個人的には便利だと思うので、従来のThinkPadにも組み込めばいいのではないかと思います。
ベンチマーク結果
試用機のスペック
CPU | Ryzen 5 PRO 6650H(6コア12スレッド、45W) |
---|---|
メモリー | 16GB(LPDDR5-6400) |
ストレージ | 512GB NVMe SSD |
グラフィックス | Radeon 660M(CPU内蔵) |
※ベンチマークテストはWindows 11の電源プランを「バランス」、電源モードを「最適なパフォーマンス」に設定した上で、標準収録ユーティリティー「Lenovo Vantage」の「電源」にて「インテリジェントクーリング」を有効に設定。さらに電源アダプターを接続した状態で実施しています
※ベンチマーク結果はパーツ構成や環境、タイミング、個体差などさまざまな要因によって大きく変わることがあります
CPU性能
CPUは、AMD Zen3世代のRyzen 5 PRO 6650H / Ryzen 7 PRO 6850H / Ryzen 9 RO 6950Hです。すでに最新世代のモバイルRyzen 7000シリーズが発表されており、モバイルRyzen 6000シリーズは旧世代となってしまいました。とは言え、性能が極端に変わるわけではないと思います。
「PRO」は、ビジネス向けの管理機能に対応していることを表わします。個人利用で気にする必要はありません。会社や組織等のシステム内で利用する際に、必要な場合があります(詳しくはシステム管理者に聞いてください)。
Ryzen 5 6650H搭載の試用機でCPUベンチマークテストを行なったところ、思っていたよりも低い結果でした。6000シリーズは5000シリーズよりもパフォーマンスが向上しているはずですが、ひとつ前のRyzen 5 5600Hと同等レベルです。
CPUの性能差 (マルチコア性能)
CPU | CINEBENCH R23 CPUスコア |
---|---|
Core i9-12900HX |
21119
|
Core i7-12700H |
16039
|
Ryzen 7 6800H |
13673
|
Ryzen 9 5900HX |
12654
|
Ryzen 7 5800H |
11346
|
Core i7-11800H |
11123
|
Ryzen 7 6800U |
10183
|
Ryzen 7 5825U |
9740
|
Ryzen 5 5600H |
8901
|
Core i7-1260P |
8984
|
Core i5-1240P |
8928
|
ThinkPad Z16(Ryzen 5 PRO 6650H) |
8891
|
Ryzen 5 5625U |
8267
|
Core i7-1250U |
7552
|
Core i5-11400H |
7529
|
Core i5-1235U |
7104
|
Core i3-1215U |
6086
|
Core i5-1135G7 |
4932
|
Core i7-1165G7 |
4711
|
※10分間実行し続けた際の最終スコア。そのほかのスコアは当サイト計測値の平均
これはおそらくCPUの発熱対策で、あえてパフォーマンスを落としているのかもしれません。薄型ノートPCでは、よく見られる症状です。Ryzen 7やRyzen 9でも、同じ症状が見られるでしょう。
とは言え、CPU性能的には十分なレベルです。言い換えれば、Ryzen 5 PRO 6650Hを使っているからこそ、薄型ボディでもこれだけの性能を発揮できるとも言えるでしょう。
グラフィックス性能
グラフィックス機能には、CPU内蔵のRadeon 660M(Ryzen 5) / 680M(Ryzen 7)またはRX 6500M(4GB)が使われます。Radeon 660Mの試用機で3Dベンチマークテストを行なったところ、内蔵タイプとしては悪くない結果でしたが、モバイルRyzen 6000シリーズとしてはやや物足りない結果でした。CPUのときと同様、発熱をコントロールするためにパフォーマンスを落としているのかもしれません。
なおグラフィックス機能としてRX 6500Mが使われていると、3D性能は大きく向上します。ただしGPU性能的にはエントリークラスで、発熱対策によりやや性能が落ちるかもしれません。
GPUの性能差(DirectX 12)
GPU | 3DMark Time Spy Graphicsスコア |
---|---|
RTX 3050 ※2 |
4828
|
RX 6500M ※2 |
4261
|
GTX 1650 |
3241
|
Radeon 680M(Ryzen7) |
2211
|
Iris Xe(Core i7+LPDDR4x) |
1528
|
ThinkPad Z16(Radeon 660M) |
1474
|
Iris Xe(Core i5+LPDDR4x) |
1302
|
Radeon (Ryzen 7) |
1000
|
Iris Plus |
812
|
※そのほかのスコアは当サイト計測値の平均 ※2 スコアはUL Solutionsによる平均値
PCを使った作業の快適さ
PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。各テストの傾向としては「Essentials」(一般利用)ではCPUのシングルコア性能やストレージ性能、「Productivity」(ビジネス利用)ではCPUのマルチコア性能とメモリー性能、「Digital Contents Creation」(コンテンツ制作)ではCPUとストレージ、GPU性能が強く影響するようです。
各テストの目標値は上回っており、普通の使い方であればまったく問題ありません。コンテンツ制作系は若干弱いながらも、まあなんとかというレベルです。ただし基本的には文字や数値中心の作業、ビジネスソフトの利用などに向いています。RX 6500M搭載モデルであれば、コンテンツ制作系のパフォーマンスもある程度伸びるでしょう。
PCMark 10ベンチマーク結果
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般的な利用) 目標値:4100 |
9664
9477
10606
10594
10647
10093 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 |
8334
6534
8578
9536
6968
6759 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 |
6269
5363
7972
6685
5997
6342 |
※スコアの目安はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック(スリムノートPC)
▶Surface Pro 8 | Core i7-1185G7 / 16GB / Iris Xe |
---|---|
▶Yoga 770 | Ryzen 7 6800U / 16GB / Radeon 680M |
▶HP Pavilion 15-eh | Ryzen 7 5825U / 16GB / Radeon |
▶HP Spectre x360-14 | Core i7-1255U / 16GB / Iris Xe |
▶XPS 13 Plus | Core i7-1260P / 16GB / Iris Xe |
名前はThinkPadでも、作りはThinkPadではない
ThinkPad Z16をひととおり触って感じたのは、「これは従来のThinkPadとはまったく異なるものだ」という点です。トラックポイントは用意されているものの、外観面でThinkPad的だと感じるのはこの部分のみ。パーツ構成や本体内部の仕上がりはThinkPadクオリティーなのかもしれませんが、標準的なThinkPadはどちらかと言えば性能重視で、ここまで熱対策を行なうことはあまりありません。
このようにThinkPad Z16は多くの点において、従来のThinkPadとは異なります。正直なところ、筆者としては微妙に違和感がありました。たとえて言うなら、カレー屋さんがチキンカレー、ビーフカレー、野菜カレーと作ってきたのに、ハヤシライスまで出してきた的な。いや確かに似ているけど、そもそもが違うよねみたいな。
しかし筆者としては、この新しいThinkPadを否定するつもりはありません。これもある意味では進化のバリエーションのひとつでしょうし、いままでのThinkPadにこだわりがない人には受け入れられるでしょう。新しい方向性に乗っかりたい人にもアリ。
ただしいままでのThinkPadのつもりで購入を検討しているなら、やめたほうが無難です。
ThinkPad Z16 Gen 1(AMD)
※製品ページが開かない場合は、上記リンクを再度開き直してください
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