レノボの「ThinkCentre Neo Ultra」は、インテル第14世代CoreプロセッサとGeForce RTX 4060を搭載するデスクトップPCです。最大の特徴は、筐体が小さい点。一般的なゲーミングPCと同等レベルでありながら、半分以下あるいは1/3以下のサイズにまとまっています。
ただ小さいと言っても、手のひらサイズのミニPCほどではありません。以前に流行ったキューブ型くらいの大きさでしょうか。とは言え非常に高性能でありながら、これほど小さいのは驚きです。
この記事ではメーカー貸出機を使って、外観や性能、実際の使い心地などをレビューします。
ThinkCentre Neo Ultra
おことわり
このレビュー記事では、実機を10日間程度試用した上で作成しています。長期にわたって試用した際の耐久性については検証していません。あらかじめご了承ください。
スペック
発売日 | 2024年11月 |
---|---|
OS | Windows 11 Home |
CPU | 第14世代Coreプロセッサ(Core i5 / i7 / i9) |
NPU | ※オプションでKinara Ara-2 NPUを追加可能 |
メモリー | DDR5-5600 16~64GB ※SO-DIMMスロット×2 |
SSD | 256GB~2TB Gen4 NVMe SSD ※2基搭載可能 |
グラフィックス | RTX 4060(8GB) ※デスクトップ向け |
通信 | 無線:なし / Wi-Fi 6E / 7、有線:1GB / 1Gb + 2.5Gb |
サイズ / 重量 | 幅195×奥行き191×高さ111mm / 約3.5kg(最大構成) |
外観
インターフェース構成
分解・パーツ交換について
本体の分解方法
メモリーの増設について
SSDの増設・換装について
UEFI(BIOS)設定画面
冷却性能の調整
「Power」→「Intelligent Cooling」から、CPUの冷却性能を調整できます。検証機では、「Peformance mode」が標準に設定されていました。「Balance mode」を選べば、高負荷時の騒音をある程度抑えられます。
Intelligent Cooling設定
項目名 | 概要 | PL1 / PL2 |
---|---|---|
Balance mode | 性能とノイズのバランスを考慮したモード | 64W / 219W |
Peformance mode ※標準 | 高い性能を発揮できるものの、騒音がそれなりに聞こえるモード | 160W / 219W |
Full Speed | すべてのファンを最大出力でぶん回すモード。非常にうるさい | 160W / 219W |
ベンチマーク結果
※ベンチマーク結果はパーツ構成や環境、タイミング、個体差などさまざまな要因によって大きく変わることがあります
CPU性能
CPUとしては、第14世代のデスクトップPC向けCPUが使われています。搭載するCPUは注文時のカスタマイズ画面で選択可能で、ラインナップは以下の6種類です。
CPU性能を計測する「PassMark Performance Test 11」の「CPU Marks」は、以下のとおり。同CPUの平均値を上回っており、熱による性能低下の兆候は見られません。より上位のCPUを搭載したゲーミングPCには及ばないものの、スタンダードデスクトップPCとしては非常に高性能です。
デスクトップPC向けCPUの性能比較
CPU | PassMark CPU Marks |
---|---|
Core i9-14900 |
4480
47567 |
Core i9-13900 |
4327
46630 |
検証機(Core i7-14700) |
4335
45191
|
Core i7-14700 |
4266
42545 |
Core i9-14900T |
3959
39783 |
Core i5-13500 |
3881
31784 |
Core i5-14500 |
4006
31715 |
Core i7-13700 |
3892
31071 |
Core i7-14700T |
3892
31071 |
Core i5-14500T |
3826
24042 |
※「S」はシングル、「M」はマルチ。そのほかのスコアはPassMark CPU Benchmarksによる平均値
ミニPCとの比較は、以下のとおり。ノートPC向けCPUが使われているミニPCよりも、はるかに高性能です。またUEFI(BIOS)画面で冷却性能を変えると、「Balance」(PL1:64W)モードと「Performance」モード(PL1:160W)ではけっこう大きな差が現われます。「Full Speed」モード(PL1:160W)はファンの音が大きいだけで、パフォーマンスは「Performance」モードとあまり変わりません。
ミニPCの性能比較
CPU | CINEBENCH R23 Score |
---|---|
ThinkCentre Neo Ultra(Core i7-14700) ※Performance |
2081 26823
|
ThinkCentre Neo Ultra(Core i7-14700) ※Full Speed |
2083 25826
|
ThinkCentre Neo Ultra(Core i7-14700) ※Balance |
2080 17803
|
GMKtec NucBox K8 Plus(Ryzen 7 8845HS) |
1788
16176 |
ThinkCentre M75q Gen5(Ryzen 7 PRO 8700GE) |
1810
14957 |
GEEKOM AE7(Ryzen 9 7940HS) |
1781
14483 |
GMKtec NucBox M7(Ryzen 7 PRO 6850H) |
1558
13374 |
MINISFORUM UM773 Lite(Ryzen 7 7735HS) |
1571
12478 |
GEEKOM GT13 Pro(Core i9-13900H) |
1723
11651 |
GMKtec NucBox M5 Plus(Ryzen 7 5825U) |
1364
6514 |
GMKtec NucBox G3(Intel N100) |
796
2865 |
NucBox G3 Plus(N150) |
793
2723 |
※「S」はシングル、「M」はマルチ。スコアは当サイトの実機計測結果
グラフィックス性能
グラフィックス機能としては、デスクトップPC向けのRTX 4060が使われています。海外向けにはには内蔵グラフィックスのみのモデルもあるようですが、日本国内ではいまのところ(記事執筆時点)RTX 4060を搭載したモデルのみです。
グラフィックス性能を計測する3Dベンチマークテストでは、ミドルレンジクラスとしては順当な結果でした。感覚的には15~18万円クラスのゲーミングPCと同程度だと思います。筐体の小ささを考えれば、なかなか健闘していると考えていいのではないでしょうか。
ちなみにスコアは「Performance」モード時のものですが、冷却性能を変更してもベンチマークテストの結果に大きな差は出ませんでした。
GPU性能(DirectX 12,WQHD)
GPU | 3DMark Time Spy Graphics |
---|---|
RTX 4060 Ti(8GB) |
13497
|
RTX 4060 Ti(16GB) |
13479
|
RTX 3060 Ti |
11707
|
RTX 4060 |
10613
|
検証機(RTX 4060) |
10415
|
RTX 3060 |
8743
|
RTX 3050 |
6220
|
GTX 1650 |
3556
|
Intel Arc |
3309
|
Radeon 880M |
3153
|
Radeon 780M |
2737
|
Radeon 680M |
2351
|
Iris Xe |
1517
|
※そのほかのスコアはUL Solutionsによる平均値
PCを使った作業の快適さ
PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Essentials (一般利用) |
ソフトの起動やWeb閲覧、ビデオ会議など一般的な作業を想定。CPUのシングルコア性能が強く影響する |
Productivity (ビジネス利用) |
表計算とワープロにおいて、中規模クラスのデータを扱うテスト。CPUのマルチコア性能が影響しやすい |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) |
写真加工と3D製作、動画編集を扱うテスト。CPU性能とグラフィックス性能が強く影響する |
冷却モードを変えてテストを行なったところ、どのモードでも非常に優れた結果でした。GPUは現行世代のミドルレンジではあるものの、旧世代のハイエンドにも負けない性能です。もちろん、ミニPCよりも性能面ではは大きく上回っています。
PCMark 10ベンチマーク結果
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般的な利用) 目標値:4100 |
11259
11275
11354
10755
11087
10912
10840
11414 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 |
11977
10858
11921
10805
10566
9591
10397
10614 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 |
14495
14860
15224
8559
9674
12282
13307
15410 |
※スコアの目安はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック
▶ThinkCentre M75q Gen5 | Ryzen 7 PRO 8700GE / 32GB / Radeon 780M |
---|---|
▶NucBox K8 Plus | Ryzen 7 8845HS / 32GB / Radeon 780M |
▶G-Master Hydro Z590-Mini | Core i7-11700K / 16GB / RTX 3070 |
▶Alienware Aurora R13 | Core i7-12700KF / 16GB / RTX 3070 |
▶OMEN 45L | Core i9-12900K / 32GB / RTX 3090 |
クリエイティブ性能
「UL Procyon」は、世界的にも利用者が多く「デファクトスタンダード」とも言えるアドビ製プロクリエイター向けソフトの快適さを計測します。「PCMark 10」と比べて、より高度で実践的なテストを行なう点が特徴です。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Photo Editing | 「Photoshop」と「Lightroom Classic」を利用した、写真の加工・出力に関する総合評価 |
Video Editing | 「Premiere Pro」を使ったテストで、フルHD (H.264)および4K (H.265)動画の出力にかかった時間からスコアが算出される |
ここ最近はデスクトップPCを検証していなかったため、現行モデルのデータが手元にありません。そのため、ミニPCとの比較を行なっています。スコアは非常に優秀で、特にGPU性能が強く影響する「Video」の結果が飛び抜けた結果でした。
クリエイティブ性能の比較
CPU | UL Procyon |
---|---|
ThinkCentre Neo Ultra(Core i7-14700) ※Performance |
7676
28145
|
GMKtec NucBox K8 Plus(Ryzen 7 8845HS) |
6053
9484 |
ThinkCentre M75q Gen5(Ryzen 7 PRO 8700GE, Radeon 780M)) |
5952
8065 |
GMKtec NucBox M7(Ryzen 7 PRO 6850H, Radeon 680M) |
4614
7941 |
MINISFORUM MS-01(Core i9-12900H, Iris Xe) |
5349
7755 |
GEEKOM AE7(Ryzen 9 7940HS, Radeon 780M) |
5772
7195 |
GMKtec NucBox M6(Ryzen 5 6600H, Radeon 660M) |
4751
6941 |
GEEKOM GT13 Pro(Core i9-13900H, Iris Xe) |
4631
5491 |
GMKtec NucBox M5 Plus(Ryzen 7 5825U, Radeon) |
3526
4321 |
※「Photo」はPhoto Editing、「Video」はVideo Editing。スコアは当サイトの実機計測結果
ゲーム性能について
ゲーム性能についてはミドルレンジのゲーミングPC相当で、なかなか優秀です。人気ゲームをフルHDでカジュアルに楽しめるでしょう。ただしプレー時の騒音が大きいので、ヘッドセットの着用は必須。またレイトレーシング(レイトレ)では、クオリティーを多少下げる必要があるかもしれません。
※テスト結果はフルHD時で「Performance」モード時のものです
エーペックスレジェンズ 射撃訓練場(やや軽い)
フレームレート
最低画質 | 最高画質 |
---|---|
最大300Hzのディスプレイで、常時300fps前後であるのを確認 | 常時210 fps前後。快適にプレー可能 |
FF14ベンチ(やや重い)
評価とフレームレート
最高画質 |
---|
16822(非常に快適) 平均122.24 fps |
サイバーパンク2077(超重い)
フレームレート
画質:ウルトラ(レイトレオフ) | 最高画質(レイトレーシング:オーバードライブ) | |
---|---|---|
DLSS無効 | 平均95.18 fps。レイトレなしなら快適 | 平均36.24 fps。遊べないことはないが、快適ではない |
DLSS有効 | 平均134.22 fps。カクつきを感じない | 平均51.52 fps。動きは比較的普通だが、ちょっとカクつきを感じることがある |
熱と騒音について
※計測時の室温は15度前後。室温が変わると、結果が異なる場合があります
標準時(Performance mode)の熱と騒音
まず標準の「Performance mode」(PL1:64W / PL2:219W)では、CPU温度は最大で99度、平均で83.4度とけっこう高めでした。消費電力はPL2が219Wに設定されているものの、最大では180.6W、平均では94.1W程度です。高出力状態は2分程度で、その後は温度も消費電力も徐々に減っています。
各項目の平均値と最大値
CPU温度 | 平均83.4度 | 最大99度 |
---|---|---|
CPU消費電力 | 平均94.1W | 最大180.6W |
騒音については、高負荷時にはかなり大きく聞こえます。ただ短時間であれば、なんとか許容できる範囲かなと。また突然音が大きく聞こえる場面も何度かありました。軽作業中は比較的静かですが、重い作業だとそれなりに機にあるかもしれません。
駆動音の計測結果(Balance)
電源オフ時 | 36.5dB | - |
---|---|---|
待機中 | 37.4dB前後 | 低いモーター音がうっすらと聞こえるが、基本的には静か |
Windows Update時 | 41.0dB前後 | 短い時間、排気音が少し大きく聞こえる |
ゲーム時(FF14ベンチ) | 38.3→47dB | はじめはモーター音が少し聞こえる程度だが、その後はモーター音と排気音がけっこう大きく聞こえる。ヘッドホンを付ければ、気にならないレベル |
高負荷時(CINEBENCH) | 51.3dB前後 | モーター音がかなり大きく聞こえる。うるさい |
(参考)エアコンの最大出力 | 48~58dB前後 | - |
Balance modeの熱と騒音
Balance mode時は多少パフォーマンスは落ちるものの、熱と消費電力はかなり低く抑えられています。普通に作業するなら、このモードがいいかもしれません。
各項目の平均値と最大値
CPU温度 | 平均67.2度 | 最大93度 |
---|---|---|
CPU消費電力 | 平均59.9W | 最大175.7W |
騒音は一瞬大きく聞こえることはありましたが、全体的にはかなり静かです。
駆動音の計測結果(Performance)
電源オフ時 | 36.5dB | - |
---|---|---|
待機中 | 37.3dB前後 | 低いモーター音がうっすらと聞こえるが、基本的には静か |
Windows Update時 | 39.6dB前後 | 排気音がハッキリと聞こえるが、うるさくは感じない |
高負荷時(CINEBENCH) | 45→38dB前後 | 開始してから比較的早い段階で音が大きく聞こえるが、すぐに静かになる。排気音が多少聞こえるものの、静か |
(参考)エアコンの最大出力 | 48~58dBA前後 | - |
Full Speed時の熱と騒音
空冷ファンが最大出力で動作する「Full Speed」では、CPUの平均温度が74.5度と「Performance mode」時よりも低く抑えられていました。熱が大きく下がるためか、一度85W付近まで下がった消費電力は4分以降に徐々に大きくなっています。
各項目の平均値と最大値
CPU温度 | 平均74.5度 | 最大99度 |
---|---|---|
CPU消費電力 | 平均113.9W | 最大176.5W |
ただし音がビックリするほど大きいので注意してください。正直なところ、常用できる環境ではありません。
駆動音の計測結果(Quiet)
電源オフ時 | 36.6dB | - |
---|---|---|
待機中 | 64.1dB前後 | ビックリするほど音が大きい。強い排気音と、低く響くモーター音が常時聞こえる。かなりのストレスを感じるはず |
Windows Update時 | ||
軽作業時(PCMark 10) | ||
高負荷時(CINEBENCH) | ||
(参考)エアコンの最大出力 | 48~58dBA前後 | - |
考察とまとめ
小さくてもゲーミングPC並みのパワー
小さいPCはある種のロマンを感じるものですが、内部に熱がこもりやすいのがデメリットです。そのため機種によってはあえて性能を落としたり、駆動音が大きく聞こえる場合があります。
第14世代CoreプロセッサとRTX 4060の組み合わせもそれなりの熱が生じるため、テスト前までThinkCentre Neo Ultraの性能は少し低いのではないかと思っていました。しかし実際のところベンチマークテストの結果は非常に優秀で、大型のゲーミングPCと遜色ないレベルです。静音性をトコトン追求した機種ほどではないものの、15~18万円台あたりで販売されている機種には、最大瞬間風速では負けていないでしょう。
ただ、高負荷の状態を常時保ち続けるゲーミングPCほどの余裕はありません。そのためガッツリとゲームを楽しむのには向いていないと思います。どちらかと言えば、動画編集などで一時的にCPUとGPUをぶん回したい人向けです。
確かに小さいけれども……
筐体は一般的なゲーミングPC / クリエイター向けPCよりも小さいのですが、机の上に置くと存在感がありまくりです。厚みが11cmもあるので、意外と配置を決めるのが難しいような印象を受けました。個人的には、もう少し高さを抑えてくれれば……といったところです。
ThinkCentre Neo Ultra