レノボの『Yoga Book 9i Gen 8 (第13世代Intel Core)』は、2枚のディスプレイを搭載する一風変わったノートPCです。イロモノ的にも思えますが、デスクトップ領域が大きく増えるぶん、作業効率はアップするでしょう。ただし値段は、かなりお高め。コスパよりも、PCにロマンを求める人に向いています。
記事執筆時の価格
スペック | 価格 |
---|---|
Core i7-1355U / 16GB / 1TB | 38万2800円 |
※2024年2月13日時点
この記事ではメーカーからお借りした実機を使って、デザインや性能、実際の使い心地などをレビューします。※長文注意
おことわり
・この記事の検証では、メーカー貸し出し機材を利用しています。また記事中のリンクからほかのサイトを開き物品を購入すると、当サイト運営元が報酬を得る場合があります。
・記事執筆にあたり、機材を1週間程度試用した上で作成しています。長期にわたって試用した際の耐久性については検証していません。
・記事の公開にあたり、メーカーによる事前の確認や校閲は受けていません。
スペック
発売日 | 2023年12月8日 |
---|---|
OS | Windows 11 Home |
ディスプレイ | 13.3インチ、2880×1800ドット、OLED、光沢、Display HDR True Black 500、40nit、100% DCI-P3、60Hz |
CPU | Core i7-1355U(10コア[P×2+E×8] / 12スレッド) |
メモリー | 16GB LPDDR5x-6400 ※オンボード増設非対応 |
ストレージ | 1TB PCIe 4.0 x4 NVMe SSD |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.1 |
インターフェース | USB4 / Thunderbolt 4 (40Gbps、PD / DP対応)×3 |
生体認証 | 顔認証用IRカメラ |
サイズ / 重量 | 幅299.1×奥行き203.9×高さ15.95mm / 約1.34kg |
バッテリー | ※駆動時間は非公開 |
外観について
Yoga Book 9i Gen 8の外観については、レビュー動画でより詳しく紹介しています。見た目や薄さ、重さなどが気になる人は、こちらをご覧ください。
https://youtu.be/pA8VCOeo19Y
こまめブログ公式チャンネル
本体デザイン
スタンドについて
付属の「フォリオケース」はキーボードカバーとして使えるほか、折りたたむことでスタンドとしても利用できます。
キーボードについて
物理的なキーボードは、本体に搭載されていません。付属のBluetoothキーボードか、ソフトウェアキーボードを利用します。
インターフェースについて
用意されている端子類は、USB4(40Gbps)のみ。映像出力やUSB PDに対応しています。別の充電器を使う場合は、付属の電源アダプターと同じ65Wタイプを利用するといいでしょう。
サイズと重さ
大きさの比較
フットプリント(設置面積)は、非常にコンパクトです。同じ13インチクラスと比較して、だいぶ小さいと考えていいでしょう。
主な13インチ級ノートPCの大きさ
機種名 | サイズ | 面積 |
---|---|---|
XPS 13 (13.4″) | 横295.4mm×縦199.4mm | 58,902.76mm2 |
Yoga Book 9i Gen 8 (13.3″) | 横299.1mm×縦203.9mm | 60,986.49mm2 |
HP Pavilion Aero 13 (13.3″) | 横298mm×縦209mm | 62,282mm2 |
Inspiron 13 (13.3″) | 横296.68mm×縦213.5mm | 63,341.18mm2 |
dynabook GZ/HW (13.3″) | 横306mm×縦210mm | 64,260mm2 |
FMV LIFEBOOK WU3/H2 (13.3″) | 横308.6mm×縦209mm | 64,497.4mm2 |
ThinkPad X13 Gen 4 (13.3″) | 横301.7mm×縦214.8mm | 64,805.16mm2 |
MacBook Air Mid 2022 (13.6″) | 横304.1mm×縦215mm | 65,381.5mm2 |
Surface Laptop 5 (13.5″) | 横308mm×縦223mm | 68,684mm2 |
厚さの比較
本体の厚さは、13インチクラスとしては平均的です。ただし強度を出すために厚く作られる傾向の2-in-1タイプとしては薄め、と言っていいかもしれません。実際に手に持ってみても、特に厚みを感じるほどではありませんでした。
主な13インチ級ノートPCの厚さ
機種名 | 厚さ(突起部を除く) |
---|---|
MacBook Air Mid 2022 (13.6″) | 11.3mm |
XPS 13 (13.4″) | 13.99mm |
Surface Laptop 5 (13.5″) | 14.5mm |
Inspiron 13 (13.3″) | 15.65mm |
Yoga Book 9i Gen 8 (13.3″) | 15.95mm |
ThinkPad X13 Gen 4 (13.3″) | 16mm |
FMV LIFEBOOK WU3/H2 (13.3″) | 16.9mm |
dynabook GZ/HW (13.3″) | 17.9mm |
HP Pavilion Aero 13 (13.3″) | 18.9mm |
重さの比較
本体の重量は、13インチクラスとしてはかなり重めです。持ち歩けないほどではありませんが、一般的なモバイルノートPCと比べて、重さを感じるでしょう。
なお公称値の1.34kgは本体のみの重さで、キーボードを加えると1.58kg、さらにスタンドカバーとペンを加えると1.79kg、さらに電源アダプター(175g)を加えると1.965kgにまで増えます。ディスプレイ2枚と80Whの(ノートPCとしては)大容量のバッテリーを内蔵しているのと、一部機能を周辺機器として別パーツ化しているのとで、トータルとしてはかなり増えている印象です。
主な13インチ級ノートPCの重さ
機種名 | 厚さ(突起部を除く) |
---|---|
FMV LIFEBOOK WU3/H2 (13.3″) | 0.864kg |
dynabook GZ/HW (13.3″) | 0.875kg |
HP Pavilion Aero 13 (13.3″) | 0.957kg |
ThinkPad X13 Gen 4 (13.3″) | 1.09kg~ |
XPS 13 (13.4″) | 1.17kg |
Inspiron 13 (13.3″) | 1.24kg |
MacBook Air Mid 2022 (13.6″) | 1.24kg |
Surface Laptop 5 (13.5″) | 1.297kg |
Yoga Book 9i Gen 8本体のみ | 1.34kg |
Yoga Book 9i Gen 8 +キーボード | 1.58kg |
Yoga Book 9i Gen 8 +キーボード+スタンド+ペン | 1.79kg |
Yoga Book 9i Gen 8 フルセット | 1.965kg |
ディスプレイについて
映像の精細さ
ディスプレイの映像は、非常に高精細です。パネルのサイズは13.3インチで、解像度は2880×1800ドット。画素密度だけで見れば、ノートPCとしてはトップクラスと言っても過言ではありません。
なお実際にはデスクトップは拡大表示されているため、文字が小さすぎて読めないということはありません。文字のドット感はとても少なく、なめらかな線で描かれます。しかしドット・バイ・ドットの100%表示では、文字がとんでもなく小さくて読めないので注意してください。また年齢的に視力が弱ってきていると、標準設定でも若干見えづらく感じるかもしれません。必要に応じて、Windowsのスケーリングを調整する必要があります。
画素密度の比較
機種名 | 画素密度 |
---|---|
27” 4Kディスプレイ | 163ppi |
13.3” FHD(1920×1080) | 166ppi |
13.3” WUXGA(1920×1200) | 170ppi |
Surface Laptop 5(13.5″, 2256×1504) | 201ppi |
13.3″ WQHD(2560×1440) | 221ppi |
MacBook Air Mid 2022 (13.6″, 2560×1664) | 224ppi |
13.3″ WQXGA(2560×1600) | 227ppi |
MacBook Pro Late 2023 (14.2″, 3024×1964) | 254ppi |
Yoga Book 9i Gen 8 (13.3″, 2880×1800) | 255ppi |
iPhone 15 Pro Max (6.7″, 2796×1290) | 460ppi |
ディスプレイの明るさ
明るさは公称値で400nit(㏅/㎡)。筆者の計測(i1Display Proを使用)では最大で353nitでしたが、それでも非常に明るく感じました。明るい照明の下でも、画面が見づらく感じることはありません。
Windowsの明るさ設定を減らすと、最終的にはほとんど見えないほど暗くなります。バックライトを使わないOLEDパネルならではでしょう。
映像の鮮やかさ(色域)
映像は非常に色鮮やかです。i1Display Pro(カラーキャリブレーター)でディスプレイの色域を計測したところ、DCI-P3カバー率で100%と公称値どおりの結果が出ました。一般的なノートPCではsRGBカバー率100%でも赤の発色が弱くややくすんだような印象に見えることがありますが、Yoga Book 9i Gen 8では赤が強く感じられます。
色域測定結果
sRGBカバー率 100% | sRGB比 155.3% |
DCI-P3カバー率 100% | DCI-P3比 114.5% |
AdobeRGBカバー率 97.1% | AdobeRGB比 115.1% |
ただ全体としては、色がやや派手めに調整されている印象です。個人で写真や動画を楽しむには問題ないものの、色味をより厳密に重視するクリエイターの人はしっかりキャリブレーションを行なったほうがいいかもしれません。
屋外での利用
明るさは十分であるものの、パネル表面の光沢仕上げにより、かなりの映り込みが生じます。基本的に屋外の利用は避けたほうが無難かもしれません。もしくは映り込みを抑える、非光沢フィルムなどをディスプレイ表面に貼る手もあります。
視野角
ディスプレイの角度を変えると、画面がやや暗く見えます。と言っても角度を極端に変えた場合のことで、普通に作業するぶんにはまったく問題ありません。詳しくはレビュー動画でご確認ください。
ベンチマーク結果
検証機のスペック
CPU | Core i7-1355U |
---|---|
メモリー | LPDDR5x-6400 16GB |
ストレージ | 1TB NVMe SSD |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) |
※ベンチマーク結果はパーツ構成や環境、タイミング、個体差などさまざまな要因によって大きく変わることがあります
パフォーマンス設定
Yoga Book 9i Gen 8は、標準収録ユーティリティー「Lenovo Vantage」でパフォーマンスを調整できます。今回の検証では3つのモードでベンチマークテストを行ないました。
記事中の表記について
記事中の表記 | パフォーマンス設定 | 概要 |
---|---|---|
最大 | エクストリーム・パフォーマンス | もっとも高性能だが、駆動音が大きくバッテリー消費が大きい |
標準 | インテリジェント・クーリング | 性能とバッテリー消費量のバランスを考慮 |
省電力 | バッテリー省電力 | バッテリー消費がもっとも少なく静音性が高いが、性能は控えめ |
PCを使った作業の快適さ
まずは、Yoga Book 9i Gen 8の総合的な性能から。PCMark10は、PCを使った作業の快適さを計測するベンチマークテストです。一般的な作業を想定しているため、テストでは比較的軽い処理が行なわれています。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Essentials (一般利用) |
ソフトの起動やWeb閲覧、ビデオ会議など一般的な作業を想定。CPUのシングルコア性能が強く影響する |
Productivity (ビジネス利用) |
表計算とワープロにおいて、中規模クラスのデータを扱うテスト。CPUのマルチコア性能が影響しやすい |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) |
写真加工と3D製作、動画編集を扱うテスト。CPU性能とグラフィックス性能が強く影響する |
最大設定と標準設定では、スコアに大きな違いは表われませんでした。同じCPUを搭載する他機種(HP Pavilion 15-eg)と同程度のスコアが出ており、十分な性能が発揮できていると思われます。ちなみに省電力設定では、15~20%程度スコアが低下しました。
PCMark 10ベンチマーク結果(電源接続時)
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般利用) 目標値:4100 |
10643
10708
9248
10616
9882
10917
10258
10501 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 |
7183
7123
5961
10003
6966
9572
7417
7622 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 |
6218
6038
4520
6018
5500
6536
6026
6624 |
※スコアの目標値はPCMark 10公式サイトによるもの
比較機のスペック(スリムノートPC)
▶ThinkBook 14 Gen5 | Ryzen 5 7530U / 16GB / Radeon |
---|---|
▶Vostro 15 3550 | Core i5-1335U / 16GB / Iris Xe |
▶IdeaPad Flex 5 Gen 8 | Ryzen 7 7730U / 16GB / Radeon |
▶HP Pavilion 15-eg | Core i7-1355U / 16GB / Iris Xe |
▶Inspiron 16 5630 | Core i7-1360P / 16GB / Iris Xe |
続いて電源アダプターに接続した状態と、バッテリー駆動時の性能の違いについて。最大パフォーマンス時は大きな違いはなかったものの、標準設定や省電力設定ではバッテリー駆動時に性能が大きく落ちることがわかりました。スコア的にはCore i5以下で、Core i3の最大パフォーマンス時相当かもしれません。軽めの作業には十分ではあるものの、ガッツリ作業したいときは電源アダプター(もしくはモバイルバッテリー)に接続した状態での作業をおすすめします。
PCMark 10ベンチマーク結果(バッテリー駆動時)
テスト | スコア |
---|---|
Essentials (一般的な利用) 目標値:4100 |
10643
10481
10708
9133
9248
8113 |
Productivity (ビジネス利用) 目標値:4500 |
7183
7257
7123
5124
5961
5146 |
Digital Contents Creation (コンテンツ制作) 目標値:3450 |
6218
5856
6038
4928
4520
4252 |
※スコアの目標値はPCMark 10公式サイトによるもの
CPU性能
CPU性能を計測するベンチマークテストでは、同じCPUの平均値をやや下回ったものの、妥当なスコアが出ています。2024年2月時点での位置付け的には、中位クラスといったところでしょう。これは、CPUとして使われているCore i7-1355Uが省電力性能重視タイプであるため。よっぽど重い作業を行なわない限り、特に問題はありません。
薄型ノートPC向けCPUの性能差 (総合性能)
CPU | PassMark CPU Mark Score |
---|---|
Ryzen 7 7735U |
21043
|
Core i5-1340P |
20760
|
Core i7-1360P |
19623
|
Ryzen 7 7730U |
18979
|
Core i5-1335U |
18240
|
Ryzen 5 7535U |
17163
|
Ryzen 5 7530U |
16196
|
Core i7-1355U |
15636
|
検証機 (Core i7-1355U, 標準) |
14388
|
Core i3-1315U |
13033
|
Ryzen 3 7330U |
10909
|
Core i3-N305 |
10265
|
Ryzen 5 7520U |
9759
|
Ryzen 3 7320U |
9249
|
Intel N100 |
5638
|
※スコアはPassMark CPU Benchmarksによる集計値
薄型ノートPC向けCPUの性能差 (シングルスレッド)
CPU | PassMark CPU Mark Score |
---|---|
Core i7-1360P |
3670
|
Core i5-1335U |
3665
|
Core i7-1355U |
3606
|
Core i3-1315U |
3573
|
検証機 (Core i7-1355U, 標準) |
3528
|
Ryzen 7 7735U |
3289
|
Ryzen 7 7730U |
3228
|
Ryzen 5 7530U |
3136
|
Ryzen 5 7535U |
3105
|
Ryzen 3 7330U |
3089
|
Ryzen 5 7520U |
2573
|
Ryzen 3 7320U |
2485
|
Core i3-N305 |
2279
|
Intel N100 |
1971
|
※スコアはPassMark CPU Benchmarksによる集計値
パフォーマンスモードと電源駆動 / バッテリー駆動を変えると、やはりスコアは大きく変わります。ガッツリ作業するのであれば、電源に接続したほうがいいでしょう。
興味深いのは、バッテリー駆動時に標準設定でシングルコアのスコアが高く出ている点です。このあたりが、レノボの「インテリジェント・クーリング」によるチューニングなのでしょう。外出先で少しでも快適に使いたいなら、最大設定ではなく標準設定を選んだほうがいいかもしれません。
グラフィックス性能
グラフィックス機能としては、CPU内蔵のIris Xe Graphicsが使われます。3Dベンチマークテストを行なったところ、同じグラフィックス機能が使われる機種としては妥当な結果が出ました。
このくらいの結果でもこれまでは「内蔵グラフィックスとしては標準的な結果」と言えました。しかし直近のCPUはグラフィックス性能が大きく向上しており、今後は「やや低めの結果」と判断されることになるでしょう。
内蔵グラフィックスの性能
GPU | 3DMark Time Spy Graphics |
---|---|
Intel Arc Graphics |
3759
|
GTX 1650 ※参考値 |
3563
|
Radeon 780M(RDNA3) |
2727
|
Radeon 680M(RDNA2) |
2350
|
Radeon 760M(RDNA3) |
2282
|
検証機(Iris Xe,最大) |
1626
|
検証機(Iris Xe,標準) |
1543
|
Iris Xe |
1522
|
Radeon 660M(RDNA2) |
1189
|
検証機(Iris Xe,省電力) |
1185
|
※そのほかのスコアはUL Solutionsによる平均値
AI性能
「UL Procyon AI Inference Benchmark for Windows」は、ハードウェアのAI推論性能を計測するベンチマークテストです。Yoga Book 9i Gen 8で使われているCore i7-1355UはNPU(CPU内蔵のAI機能)非対応のため、CPU(または内蔵グラフィックス)による演算結果が出力されます。
APIを「Windows ML」、Precision(精度)を「float32」(浮動小数点)に設定してテストを行なったところ、CPUの演算結果で「60」という結果が出ました。「GPU」のテストについては行なっていません。そのため総合的な性能を判断するには情報が足りないのですが、Iris Xeのグラフィックス性能は最近のRadeonシリーズよりも劣ることを考えると、スコアが大きく伸びることはないと思われます。ざっくりと雑に考えて、AI性能は低そうです。
比較機のスペック
MINISFORUM EM680 | Ryzen 7 6800U / 16GB / Radeon 680M(RDNA2) |
---|---|
Legiohn Go | Ryzen Z1 Extreme / 16GB / Radeon(RDNA3) |
HP Pavilion Gaming 15 | Ryzen 7 5800H / 16GB / RTX 3050 Ti |
クリエイティブ性能
「UL Procyon」は、アドビ製プロクリエイター向けソフトの快適さを計測するベンチマークテストです。前述の「PCMark 10」と比べて、より高度で実践的なテストをが行なわれます。
テスト結果の見方
テスト名 | 概要 |
---|---|
Photo Editing | 写真加工における総合評価。「Image Retouching」と「Batch Processing」の幾何平均 |
Image Retouching | 「Photoshop」メインで画像の加工を行なうテスト。CPUとメモリー、GPUの性能が影響しやい |
Batch Processing | RAW画像の一括出力処理を行なう「Lightroom Classic」メインのテスト。CPUとストレージの性能が影響しやすい |
Video Editing | 「Premiere Pro」を使ったテストで、フルHD (H.264)および4K (H.265)動画の出力にかかった時間からスコアが算出される |
Yoga Book 9i Gen 8はグラフィックス性能が高くないため、GPU性能が強く影響する高度な写真加工(Image Retouching)や動画編集(Video Editing)のテストではやや低いスコアが出ています。またこれらの処理はCPUへの深型非常に高いため、熱による影響も出ているでしょう。
その一方で、画像の出力処理(Batch Processing)では優秀な結果が出ています。総合的にはクリエイティブワークをガッツリと行なうほどの性能ではないものの、それでもあえて使うなら、RAW画像のちょっとした加工や出力などには向いていると言えるかもしれません。発色に優れるOLEDパネルや、編集とプレビューを同時に映し出せる2画面構成は、まさにピッタリの仕様です。
ただしメモリーカードスロットがないため、デジカメで撮影した写真を加工するなら別途メモリーカードリーダーを用意する必要があります。
比較機のスペック
MINISFORUM EM680 | Ryzen 7 6800U / 16GB / Radeon 680M(RDNA2) |
---|---|
Legiohn Go | Ryzen Z1 Extreme / 16GB / Radeon(RDNA3) |
HP Pavilion Gaming 15 | Ryzen 7 5800H / 16GB / RTX 3050 Ti |
ストレージ性能
ストレージには、1TB SSDが使われています。試用機で使われていたのはWDの「SN740」で、接続規格はPCIe 4.0 x4。「Crystal Disk Mark」を使った計測では、非常に優れた結果が出ています。
バッテリー駆動時間
バッテリーの駆動時間は、公開されていません。そこで「PCMark 10」を使ってビジネス作業 (Web閲覧や文書作成、ビデオチャットなど)実行時における駆動時間を計測したところ、標準のパフォーマンス設定で11時間12分、省電力設定では9時間29分でバッテリー切れとなりました。省電力設定での駆動時間が短かったのは、気がつかないうちにバックグラウンドでなにかの処理が走っていたからかもしれません(計測には長い時間がかかるため、再計測できませんでした)。
バッテリー駆動時間の計測結果
テスト方法 | 駆動時間 |
---|---|
※公称値(JEITA2.0) | 非公開 |
Modern Office (ビジネス作業) | 11時間12分(標準) / 9時間29分(省電力) |
50%充電までにかかった時間 | 49分 |
フル充電までにかかった時間 | 1時間58分 |
※テストの条件や計測方法についてはコチラ
モバイルノートPCで実駆動11時間は、短い印象を受けるかもしれません。しかしPCMark 10のテストバッテリー消費が大きいため、ほかのモバイルPCでも同様の結果が出ています。むしろ、ほかの機種よりも長いと考えていいでしょう。
これはおそらく、バッテリー容量が80Whと大きいためだと思われます。モバイルノートPCは45~60Whあたりが一般的。Yoga Book 9i Gen 8は物理キーボードがないぶん、空いたスペースにバッテリーを詰め込んでいるのかもしれません(実際には分解して中身を見てみないとわかりませんが、今回はメーカー貸出機のため分解していません)。
熱と騒音について
※計測時の室温は16.5度。室温が変わると、結果が異なる場合があります
本体の熱について
高負荷なベンチマーク中でも、本体が熱く感じることはありませんでした。ただし場合によっては、排気口付近でほんのり温かく感じるかもしれません。
駆動音について
駆動音(ファンの回転音や排気口からの風切り音)は、普段はあまり気になりません。ただし高パフォーマンス設定時に重い処理を行なうと、やや大きめの音が聞こえました。
駆動音の計測結果(※バッテリー駆動時)
電源オフ | 36.5dB | - |
---|---|---|
待機中 | 36.6dB前後 | ほぼ無音 |
高負荷時(省電力) | 36.7dB前後 | ほぼ無音 |
高負荷時(標準) | 37dB前後 | 排気音が少し聞こえるが、気になるほどではない |
高負荷時(最大) | 42.5dB前後 | 排気音が大きく、ファンの甲高い回転音が聞こえる。うるさすぎるほどではないが、常時聞こえるとストレスが溜まりそう |
(参考)エアコンの最大出力時 | 48~58dBA前後 | - |
CPU温度
高負荷時(CINEBENCH R23のマルチコアテストを10分間実施)におけるCPU温度を計測したところ、どのパフォーマンス設定でも問題ない範囲で推移していました。センサーのログを確認したところ、サーマルスロットリング(高温による性能低下)も発生していません。
CPUの温度(※電源接続時)
設定 | 平均温度 | 最大温度 |
---|---|---|
標準 | 65.7度 | 74度 |
省電力 | 54.3度 | 59度 |
最大 | 73.3度 | 88度 |
初期設定での消費電力を確認すると、テスト開始から25秒間程度は22~28Wで推移していたものの、それ移行は18W前後を推移していました。CPUの温度変化もゆるやかです。
省電力設定ではほぼ一貫して、12W前後を推移しています。12WはCore i7-1355Uの最小保証電力で、最低限の性能で動作ししていると考えていいでしょう。CPU温度もかなり低めです。
それに対して最大(パフォーマンス)設定では35~42Wの高出力状態が1分間程度続き、その後は23W前後でやや振り幅を大きく推移しています。CPU温度も88度と高温ですがそれもわずかな時間だけで、あとは72度前後と問題のない範囲です。
考察とまとめ
2.8K×2画面の情報量は圧倒的
Yoga Book 9i Gen 8は、レノボの「Yoga Book」シリーズの流れを組む製品です。2016年に発売された初代「Yoga Book」は1画面でしたが、ペンタブレットとしても使えるライトアップキーボードが話題を呼びました。
2代目は2018年発売の「Yoga Book C930」で、こちらはキーボード面にE-Inkパネルが使われていました。シリーズはここから2画面になるわけですが、どちらかと言えばメイン画面+サブ画面的な構成で、ややイロモノ的な印象を拭えなかったと思います。
そしてYoga Book 9i Gen 8では同じパネルを2枚使うことで、本当の意味でのデュアルディスプレイを実現しました。これで一応は完成形のようにも思えますが、Yoga Bookシリーズの開発にはThinkPadを生み出したレノボの大和研究所が関わっているとのことですので、もしかすると今後もなにか驚くような機種が出てくるかもしれません。禁断の3画面とか?
それはともかく、Yoga Book 9i Gen 8が実現した2.8K×2画面の情報量は圧倒的です。2880×3600ドットの広大なデスクトップは、ピクセル比でフルHDの5倍、4Kの1.25倍に相当します。実際にはスケーリングによって画面が拡大されているためそこまでの情報は表示されていないものの、それでも一般的なノートPCよりも多くの情報を表示可能。PCをある程度使っている人なら、「デスクトップが広いほど作業効率は向上する」点について異論はないでしょう。
Yoga Bookシリーズは初代のころから一部マニアのあいだで、奇抜な「変態PC」と言われてきました。Yoga Book 9i Gen 8でもそんな声が上がっていますが、筆者としてはこれまでとは比べものにならないほど、実用性に振り切った機種だと思います。
モバイル利用はちょっとツラい
一般的に、13.3インチディスプレイのノートPCはモバイル用途向けと言われています。Yoga Book 9i Gen 8は1画面あたり13.3インチですので、画面を閉じたときのフットプリントはモバイルサイズ。しかし、2画面で利用する際の画面サイズはかなり大きいので注意してください。
たとえば完全に開いた状態のフットプリントは、単純計算で短辺が幅299.1mm、長辺が407.8mm。面積はほぼA3サイズです。さらにキーボードやスタンドも使うなら、設置にかなりの場所を取ります。 スタバでドヤるならインパクトは抜群ですが、それなりに広いスペースが必要となるでしょう。
また、本体以外のアクセサリーを含めるとモバイルPCとしてはかなり重くなります。本体だけなら1.34kgで、まあ許容範囲内でしょう。しかしキーボードやスタンド、ペンを含めた総重量は1.793kg(電源アダプターを含めると1.965kg)で、持ち歩きにはけっこうツラい重さ。キーボード類を持ち歩かない選択肢もありますが、ソフトウェアキーボードの使い勝手にガマンできる人向けです。
以上のことから、Yoga Book 9i Gen 8は気軽に持ち歩ける機種ではないと考えたほうがいいでしょう。
パフォーマンスには期待しないほうがいい
Yoga Book 9i Gen 8では、省電力性能重視のCore i7-1355Uが使われています。形状や使われているパネルからはゴリゴリのクリエイティブワーク向けにも思えますが、Photoshopで重いデータをサクサク加工したり、4K動画を編集したりするほどのパワーはありません。そもそも16GBのメモリーはPCとして標準的な容量であり、メモリーをドカ食いする重いソフトを使うのであれば、最低でも32GBは必要です。
またベンチマーク結果からもおわかりのとおり、性能は現行製品のなかでも中位クラスです。とは言え最近のノートPC向けCPUは異様なほど高性能なので、中位クラスでも一般的な作業やビジネスには利用できるでしょう。ただし重すぎる作業(特に高いマルチコア性能を要求する処理)には向いていないので注意してください。
2画面のロマンを追及するならアリ
記事執筆時点(2024年2月中旬)の値段は、38万円台。同じ13.3インチタイプのThinkPad X13 Gen4 Core i7-1355Uモデル(18~19万円台)を、2台買える金額です。モバイルノートPCの定番であるThinkPad X1 Carbon Gen 11のCore i7モデルでも22万円前後なので、モバイルディスプレイを1台追加したほうがコストは圧倒的に安くすむでしょう。
それを理解した上で、それでも1台のPCでデュアルディスプレイを実現したいのであれば、購入はアリだと思います。もはやコスパとかそういう小難しい話ではなく、単純に「ロマン」の話でしかありません。「欲しいから買う」、それでいいんじゃないでしょうか。満足できるかどうかはわかりませんが、未来は確実に感じられると思います。
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